こんばんは。
あまりプロの将棋を取り上げるつもりはなかったのですが、
かなり印象に残った棋譜故、記事にしてみたいと思います。
竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第一局、▲木村一基九段ー△豊島将之名人の対局です。

王位戦第二局同様木村九段先手の相掛かりとなり、第1図の▲77桂が大胆な一手でした。
この手自体は前例があったようですが、対する△87歩は初めて指されたようです。
竜王戦1


進んで第2図。後手は角金交換の駒得ながら歩切れ。▲85飛の転換も見えておりまとめづらそうに見え、前例で他の棋士がこの順を見送ったのもうなずけます。
竜王戦2


実戦はここから△72金打▲85飛△82銀▲89飛打△92角!(第3図)がすごい辛抱の手順でした。
△72金打で△72金と節約するのは、▲85飛△82銀▲65桂でまとめづらいということでしょうか。
また△92角のところも、私のような素人だったら受けずに済ませる順(△71金など)を考えてしまうのですが、それでは竜を8筋を突破された後、先手の竜が手厚く辛そうです。
竜王戦3


第2図を改めて見ると、後手は一応駒得ではあるものの、得した金と角を自陣に打たされ、特に92角は働かないどころか目標にされそうに見えます。また、31銀・32金・22角と左辺は壁。一方で先手玉は広々としてバランスが良い形なので、後手が辛いかと思っていました、素人目には。

しかしここから…
▲96歩△34歩▲95歩△42銀▲86飛に△55角!(第4図)
竜王戦4

後手は3手指しただけなのに、△42銀で玉頭が厚くなり、41~31の逃げ道ができました。そして△34歩~△55角で遊んでいた角を働かせ、右辺へ転換できるようになりました。
急に景色が変わったように思いませんか?個人的にはこの△55角で後手がペースをつかんだように思います。(感想戦のコメントを見ても、ここ数手で先手は別の指し方を考える必要があったようです)

以降、後手は堅い玉形を頼りに一方的に攻め続けます。一方、広々としていたように見えた先手玉は、玉飛接近のデメリットがもろに出てしまいましたが、それを露呈させたのも、豊島名人の繊細な攻めの
技術があってこそでしょう。(並の棋士なら木村九段の受けで攻めあぐねていたかもしれません)

そして、終局図(第5図)。
竜王戦5

馬取りを手抜いて飛車の両取りをかける、△65角が決め手となりました。
第3図では不本意に「打たされた」と思われた角。香筋を邪魔していて、狙われそうな、むしろいないほうがいいように見えた角。
その角を最後の最後に働かせて勝負を決めるという、鮮やかすぎる組み立てには言葉が出ません。豊島名人の新たな名局が誕生した瞬間でした。

豊島名人(王位)ー木村九段のカードは、竜王戦挑戦者決定戦、王位戦七番勝負と続きますが、どんな棋譜が生まれるか楽しみにしています。そして、豊島先生を応援する私としては、竜王挑戦&王位防衛という結果になることを期待したいと思います(笑)